冒頭画像:サンリオ/2026年10月29日発表の公式ビジュアル。Sanrio Games第1作『サンリオ パーティランド』。
パティ&ジミーが、ローラースケートで走っている。1974年に生まれた二人が、2026年の新作ゲームに登場しました。子どもには初めて会うキャラクターでも、隣の大人には、昔持っていた文房具の顔かもしれない。サンリオの新作『パーティランド』には、同じ画面を親子で見る理由が、いくつも用意されています。
10月29日に発売された『サンリオ パーティランド』は、自社ゲームブランド「Sanrio Games」の第1作。Nintendo Switch/Switch 2で、145以上のキャラクターと、45種類以上のミニゲームなどを楽しめます。最大4人で遊べるパーティゲームです。サンリオのキャラクターを使ったゲーム自体は以前からあり、今回の転換は、自社で企画と販売を主導する点にあります。[1][2]
なぜ、キャラクターを他社のゲームへ貸すだけでなく、自分たちで売るのか。その答えを「ゲーム市場が大きいから」だけで済ませるのは惜しい。会社の説明と、実際に登場するキャラクター、教育事業まで読んでいくと、子どもが成長し、やがて誰かの親になる時間まで見据えたブランドの育て方が見えてきます。
親は「買っていい」と言う人であり、一緒に遊べる人でもある
子どもが欲しがることと、保護者が買いたいと思うことは、同じではありません。最初に与えるゲームなら、内容はもちろん、操作できそうか、家族で楽しめるかも選ぶ理由になるでしょう。使う子どもとは別に、購入を判断する人がいる。マーケティングでは、このような人をゲートキーパーと呼びます。
サンリオは、この入口をはっきり意識しています。4月の事業説明会を取材した4Gamerの質疑記録で、ゲーム事業の濵﨑皓介氏は、子どもに初めて与えるゲームとしての安心感に言及。Switchを選んだ理由も、パーティゲームやキッズ・ファミリー向けとの相性で説明しました。[3]
ここで一段先へ進んでいるのが、「親も一緒に触りたくなる」遊びを考えていることです。保護者を、購入許可を出すだけの人にしない。一緒にコントローラーを持つ人にできれば、ゲームを買う理由そのものが、「子どものため」から「家族で過ごすため」へ広がります。

新CMでは、なにわ男子の7人が、チームでゲームに挑み、サンリオキャラクターと遊びます。商品を子どもだけの場所へ閉じ込めず、大人同士でも声を掛け合って楽しむ姿を見せている。家族で遊ぶ作品にとって、これは大切な見せ方です。親も、我慢して付き合う人でなく、遊びたくなった一人として参加できるからです。[4]
昔のキャラクターを、親が子どもへ紹介できる
パティ&ジミーは、公式プロフィールで1974年デビューと紹介されています。発売から数十年を経たキャラクターを、新作の中で動かす。これは、古い絵柄を懐かしむグッズとは、少し違う体験になります。[5]

例えば、子どもが「この子は誰?」と聞いたとき、大人が知っている名前を教えられる。昔の思い出を説明するだけでなく、その場で一緒に遊べる。大人の記憶が、子どもにとって新しいキャラクターとの出会いになる。懐かしさを使うノスタルジアマーケティングが、家族の会話の中へ入ってくるわけです。
東京ゲームショウの開発者登壇でも、人によっては懐かしいキャラクターを、初めて知るきっかけにしてほしいと説明されています。人気の顔だけを並べるのではなく、サンリオが長く蓄えてきたキャラクターを、今遊べる相手にする。その方針が、登場人物の選び方にも表れています。[6]
ブランドの好みが家族の間で受け渡されることは、研究でも扱われてきました。Mooreらの2002年の論文は、母娘への調査などを通じ、日用消費財のブランドに世代間の影響があること、ただし強さはブランドごとに異なることを報告しています。[7]
ゲームなら、その受け渡しに、親子自身が参加できます。「昔、私もこれが好きだった」と聞かせるだけでなく、今、同じ遊びをする。親の懐かしさに、子ども自身の新しい思い出を重ねられる。親子向けのゲームには、その可能性があります。
英語教材から、大人のグッズまで。別事業にもある長い視点
子どもの頃に好きになったブランドと、大人になっても関わり続ける。これは、ゲームだけから想像を膨らませた話ではありません。サンリオの教育事業の担当者は、その長い関係を、事業の目的として説明しています。
エデュテイメント事業部の増田秀彰氏は、公式の社員インタビューで、乳幼児期には英語教材、学童期には英会話スクール、その後もグッズやサービスを使ってもらえるよう、ライフステージに寄り添う方針を語っています。そこで使われているのが、LTV(顧客生涯価値)という言葉です。[8]
LTVは、一回の購入だけでなく、一人の顧客との関係全体で得られる収益や利益を考える指標です。サンリオの場合、それを「同じ物をずっと買う」と想像すると、実際の事業を見誤ります。教材が必要な時期もあれば、友達と好きなキャラの話をしたい時期もある。大人になれば、自分の持ち物として選ぶことも、子どもと遊ぶために選ぶこともある。
同じ人でも、ブランドに求める役割は変わります。その変化に合わせて、また会える場所を用意する。ゲーム、学び、ショップ、カフェが並んでいることを、私は、そのような事業の積み重ねとして読みたいと思います。
しかも、一度離れた人も戻れます。子ども時代の記憶が残っていれば、自分の子が遊び始めたとき、再び好きになる理由ができる。長い関係とは、一度も途切れずに買い続けてもらうことだけではないはずです。
遊んだ後にも、同じキャラクターに会える場所をつくる
発売の周辺施策にも、この考え方を読み取れます。全国8カ所のイオンモールで予定されている試遊イベントの名前は、「親子でたのしむゲームフェスタ」。ゲーム専門店だけでなく、家族で買い物へ行く場所に、触ってみる入口を作っています。[1]

ゲームに詳しい人がソフトの情報を探しに来るのを待つだけなら、届く相手は限られます。普段ゲームの発表を追わない保護者も、その場で遊びを見て、子どもの反応を確かめられる。家族が買うかどうかを判断する前の不安を、実際に触る時間で減らせます。
一方、原宿と池袋のSANRIO CAFEでは、ゲームのフォトスポットや連動メニューを展開しています。画面の中で知ったキャラに、今度は店で会える。ゲームとカフェが別々の宣伝をするより、「遊んだあれだ」と分かる方が、次に行く理由を作りやすい。[1]

自社で企画・販売を主導する意味も、ここにつながります。サンリオは、キャラクター、世界観、ゲームのジャンルの組み合わせを自社で戦略的に設計し、ショップやテーマパークなどとも連動させる方針を公表しています。売れるキャラを他社が選ぶ機会を増やすだけでなく、どのキャラと、どんな時間を過ごしてもらうかまで決める。その仕事を、自分たちの事業にするのです。[2]
子どもの「好き」に、親としての思い出が重なる
長いブランド戦略を支えるのは、まず一本のゲームの楽しさです。子どもがもう一回遊びたくなり、大人も、懐かしい顔を見る以上の理由でコントローラーを持つ。サンリオ自身も、説明会ではゲーム事業単体で安定した収益基盤を築く考えを示しています。ほかの商品の宣伝費としてではなく、遊びそのものに対価を払ってもらう事業にするのです。[3]
だから、親子で遊べるという約束を、一本のゲームとしてきちんと満たすことが、そのまま長期のブランディングになります。家族で笑った、失敗してももう一回やった、子どもの方がうまくできた。そうした時間は、キャラクターの設定紹介だけでは作れません。
私がこの新作に期待するのは、子どもに昔の人気キャラを覚えてもらうだけの展開ではありません。大人が知っていた顔に、家族で遊んだ新しい思い出が加わることです。子どもの「好きだった」が、親になったときの「一緒に遊ぼう」へ続く。その往復を作れるなら、サンリオの長い歴史は、これからの家族にも使える財産になります。
根拠・参考資料
確認日:2026年10月29日。公式発表、過去の事例、研究を照合して構成。企業が説明した狙いと、そこから導いた分析・将来の予想を区別しています。
[1] サンリオ/10月29日発売発表。登場数、発売情報、親子イベントとカフェの連動。
[2] サンリオ/4月21日、自社パブリッシング事業発表。キャラクター・世界観・ジャンルの設計とリアルとの連動。
[3] 4Gamer/4月22日、事業説明会の取材と質疑。濵﨑氏の親子・ファミリー向けの説明、単独事業としての収益方針。
[4] サンリオ/10月20日、なにわ男子出演CMの報道資料。10月29日放映開始。
[5] サンリオ/パティ&ジミー公式プロフィール。1974年デビュー。
[6] 4Gamer/9月18日、TGS開発者登壇の取材。昔のキャラクターとの出会い、協力プレイ等。
[8] サンリオ/教育事業担当・増田秀彰氏への社員インタビュー。ライフステージとLTVの考え方。ゲーム部門の成果指標とは区別。



