冒頭画像:ドトールコーヒー/2026年10月28日発表「福袋2027」。店頭の12,000円セット。発表用製品写真。
ドトールの制服を着たシナモロールが、福袋に入ります。「人気キャラクターと組めば売れる」という説明で済ませるには、少し惜しい企画です。ドトールは、誰に新しく来てほしいのか。過去の担当者の説明と、直近の売上・客数を合わせて読むと、あの白いこいぬに頼みたくなる仕事が見えてきます。
10月28日に発表された「福袋2027」は、30日から店頭予約が始まります。限定グッズやコーヒー、店で使えるチケットを組み合わせた商品で、受け渡しは12月26日から。まずは、その姿を見てみてください。[1]

「知っている店」を、「行ってみたい店」に変える
普段の通勤で寄る人にとって、ドトールは説明の要らない店かもしれません。待ち合わせまでに一杯飲む、朝食を取る、仕事の合間にひと息つく。しかし、名前を知っている人が皆、自分の行き先として思い出すとは限りません。「そういえば近くにある」と「あそこで過ごしたい」の間には、距離があります。
今回考えたいのは、その距離です。豆のおいしさや価格を繰り返し伝えても、普段別の店を選ぶ人には、自分が使う場面まで届かないかもしれない。好きなキャラクターがその店の制服を着ると、いつもの看板を眺める理由が変わります。休憩に使う場所が、好きな物に会いに行く場所として目に入る。
この読みには、過去の手掛かりがあります。2024年、クロミとの福袋を取材したITmediaに対し、ドトール広報は、その前のポムポムプリン企画の動画が同社の過去のコンテンツで最大の再生数となり、特に20代女性へのアプローチにつながったと説明しました。サンリオとの企画で、実際に新しい接点を作れた経験があるのです。[2]
だから、シナモロールとの協業も、単なるグッズの追加より、普段のドトールの売り方では十分に声を掛けられていなかった人へ、別の言葉で誘う施策として読む方が、狙いを理解しやすいと思います。シナモロールのファン全体を「20代女性」と決め付ける必要はありません。過去の企画で届いた層と、今回のキャラクターが持つ幅は、分けて考えます。

売上が増えても、「来る人」が増えたとは限らない
では、なぜ新しい接点が必要なのでしょう。10月13日に開示された9月の実績を見ると、ドトールコーヒーショップの直営・加盟既存店は、売上が前年同月より2.0%増えた一方、客数は5.1%減っています。会社は、秋雨前線や台風による天候不順が客数に影響したと説明しています。[3]

この月だけで、ブランドの人気が落ちたと判断することはできません。ただ、売上の伸びと来店回数の伸びは別物だと分かります。単価が上がれば、来店が減っても売上は増え得る。売上の数字だけを見ていると、店へ足を運ぶ機会の変化を見落とします。
同じ10月の決算短信も、価格改定や高付加価値商品の展開と並べて、新規顧客とリピーターの獲得、客数の回復に向けた施策を説明しています。既存店の売上が伸びていても、来てもらう理由を増やす仕事は続く。その課題に、キャラクターとの協業を重ねて読むことができます。[4]
ここからは私の仮説ですが、今回狙っているのは、常連にもう一杯買ってもらうことだけではないでしょう。「ドトールは知っている。でも、自分が選ぶ店には入っていない」という人に、初めて、あるいは久しぶりに使ってもらうこと。他のカフェから無理に乗り換えさせる前に、候補の一つにしてもらう。その入口なら、いつものコーヒー広告より、制服姿のシナモロールが担える仕事があります。
シナモンは、もともとカフェの看板犬だった
キャラクターの設定にも、この組み合わせを読む手掛かりがあります。サンリオの公式プロフィールによると、シナモンは「カフェ・シナモン」のお姉さんと暮らす看板犬。好きな食べ物は、そのカフェのシナモンロールです。カフェという場所は、最初からこのキャラクターの暮らしの中にあります。[5]
そこへドトールの制服を着せる。単にコーヒーの袋に顔を印刷するのとは違い、「この店にシナモンがいたら」という場面を作れます。キャラクターの世界と、実在する店の日常が、制服一着で接する。その自然さが、今回の起用で私が良いと思う点です。
以前のクロミ企画でも、ドトール広報は、人気に加え、新しいユニフォームがよく似合ったことを選定理由に挙げていました。キャラクターの知名度だけでなく、ドトールの店員としてどんな姿になるかを考えていたことが分かります。[2]
マーケティングでいうブランド連想は、名前を聞いたときに何を思い浮かべるかということです。ドトールから仕事中の休憩を思い浮かべる人もいれば、この福袋から、シナモンと一緒にコーヒーを飲む時間を思い浮かべる人もいる。今までの使い方を消さずに、店の楽しみ方を一つ足せるところが、協業の強みではないでしょうか。
グッズの購入で終わらせず、店を試す機会を入れる
その入口を、福袋にしていることにも意味があります。店頭のバッグセットには、持ち帰るコーヒーと、店舗で使えるチケットが入ります。チケットの有効期間は、受け渡し開始の12月26日から来年5月31日までです。[1]

グッズを欲しくなった人は、コーヒーを自宅で飲み、チケットを使いに店へ行ける。店を使う理由が、福袋を受け取った後にも残ります。チケットを手にしたから必ず常連になるわけではありません。でも、新しい利用者にとっては、別の日にもう一度ドトールを試すきっかけになります。
ここで効いているのはバンドリング、複数の商品やサービスを一つに組み合わせて販売する方法です。同じセットが、普段から使う人にはコーヒーの買い置き、キャラクターを目当てにする人には限定品の買い物として成立する。買う前は別々だった関心を、同じ店の体験へ近づけられます。
さらに、今回の店頭福袋はコーヒー中心のセットにも共通のキーホルダーが付きます。高額のグッズ入りセットだけを、普段の売り場から切り離して売っているわけではない。いつものコーヒーを選ぶ人にもシナモロールが届き、シナモロールを選ぶ人にもドトールのコーヒーが届く構成です。[1]

シナモロールが連れてきた人を、ドトールはどう迎えるか
いつもの手頃な休憩や、朝の使いやすさを保ちながら、新しい人にも「ここでも過ごしてみたい」と思ってもらう。今回の企画には、そんな入口を増やしてほしいと思います。
ファンの買い物を単なる集客手段として数えるだけなら、限定品を渡したところで仕事は終わります。でも、その後にチケットで来た人が、コーヒーと店の時間まで気に入ったら、キャラクターに頼らずとも次に選ばれる可能性が生まれる。
シナモロールに頼めるのは、来てみたくなる理由を作るところまで。もう一度来たいと思ってもらう仕事は、ドトール自身に残る。この役割分担まで含めて、福袋を見たい。予約の数字だけでなく、春にチケットを使い切った後、その人の行き先に何が残ったか。そこまで届く企画になってほしいと思います。
根拠・参考資料と、この記事の見方
確認日:2026年10月28日。2027年の協業の社内ターゲットや成果は公表されていません。「新しい利用者に来店理由を作る」という説明は、会社の経営課題と、広報担当者が過去の企画について述べた成果をつないだ仮説です。20代女性への接点は過去のポムポムプリン企画についての取材内容で、今回のファン全体の属性ではありません。月次はDCS直営・加盟既存店の前年同月比で、来店人数の実数や顧客年齢の変化は示しません。会社は9月の客数に天候不順の影響を説明し、決算短信では価格改定前後1か月に大きな客数変化はなかったとも説明しています。値上げや特定の客層の離脱が減少原因だと主張するものではありません。商品写真は店頭セットで、同額のオンライン限定セットとは構成が異なります。
[1] ドトールコーヒー/10月28日、福袋2027の公式発表。予約、受け渡し、セット構成、チケット。
[2] ITmediaビジネスオンライン/2024年10月25日。ドトール広報への取材。過去の20代女性への接点、クロミの選定理由。
[3] ドトールコーヒー/2027年2月期9月の月次開示情報、2026年10月13日。DCS直営・加盟既存店の7〜9月の前年同月比と天候への説明。
[4] ドトール・日レスHD/2027年2月期第2四半期(中間期)決算短信、2026年10月13日。PDF pp.4–5、価格改定・客数・新規顧客とリピーターの獲得。



