冒頭画像:HYPEUP制作。キャンペーンの価格を題材にした編集イラスト。実際の広告ではありません。
値上げのニュースを見た後に、「ポテト250円」の広告を見る。マクドナルドは高くなったのか、それとも、まだ気軽に寄れる店なのか。実は、その二つの印象を同時に成立させることが、いまのマックの仕事なのかもしれません。
日本マクドナルドは10月27日、11月2日〜13日の12日間、マックフライポテトのM・Lサイズを同じ250円で販売すると発表しました。通常価格はMが350円〜、Lが400円〜。対象は単品で、一部店舗やデリバリーは対象外です。[1]

広告には、赤い袋に入ったポテトと大きな250円。主役は新商品ではなく、誰もが見慣れた定番です。なぜ、放っておいても売れそうな商品を、わざわざ安くするのでしょう。
売れていないポテトを、救うキャンペーンではない
同社の発表によれば、2025年のポテト販売数は全サイズ合計で8億食以上。2026年も過去最高の販売ペースだといいます。少なくとも会社の説明からは、売れ残った商品の処分や、不人気商品のてこ入れとは読めません。[1]
そこで、ポテト一品の売上から、店全体の見られ方へ視線を移してみます。マックをしばらく利用していない人でも、あの赤い袋なら分かる。「いつものポテトが250円」と聞けば、新商品を一から説明されなくても、行く理由になります。売れ筋だからこそ、店を思い出してもらう看板にもなる。
私は今回の値引きを、ポテトを売るだけでなく、「マックには、まだ気軽に行ける」という感覚を更新する企画として読みます。その根拠は、今年の値上げと、お得な施策の並べ方にあります。
値上げの告知に、お得な施策も一緒に書く
今年2月、同社は原材料費やエネルギー、人件費の上昇を理由に、標準店舗で約6割の商品を10〜50円値上げしました。ところが、その告知の見出しには、500円のセットへのマックポーク復活や「トクニナルド」も並んでいます。本文では、ハンバーガーなどの価格を据え置くことと、100円クーポンの配信も説明しています。[2]
原価の上昇に対応するため、価格は上げる。でも「全体が高くなった店」とだけ受け取られたくはない。値上げを知らせるその場所で、買いやすい選択肢も見せる。二つは別々の広報活動ではなく、同じ告知の中に組まれています。

8月にも、M・Lサイズを250円にする12日間の企画がありました。今回と同じ堺雅人さんと永尾柚乃さんのCMも、ここで登場しています。11月の250円は、初めて見る驚きというより、「また、あれが来た」と分かるお得さです。[3]
全商品をずっと安くするのは難しい。一方で、ときどき確実に安く買える定番があれば、「自分にも利用する機会がある店」でいられる。期間を区切った250円は、通常価格を維持しながら、その機会を作っています。
店の価格イメージを背負う商品がある
小売の価格戦略には、KVI(キー・バリュー・アイテム)という考え方があります。ユーザーが値段に気づきやすく、店全体の「安い・高い」を判断するときの手掛かりにする商品です。マッキンゼーの解説は、すべての商品で最安値を競う代わりに、そうした商品を見極めて価格を投資する方法を示しています。[4]
例えば、スーパーの全商品の価格を覚えている人は少なくても、いつも買う物の値段なら比べられる。マックでも、期間限定バーガーの価格の妥当性を細かく判断するより、見慣れたポテトの値引きの方が、一瞬で分かります。
マクドナルドがポテトを社内でKVIと呼んでいる、と確認できたわけではありません。それでも、長年売れ続ける定番を大きく値引きし、繰り返し広告にする今回の企画は、この考え方でよく説明できます。価格を下げる対象と、価格イメージを伝える対象を、同じ商品にしているのです。
ここで安くなるのは、あくまでポテト単品です。いつものセット全体が同じ割合で安くなるわけではありません。けれども広告を見た瞬間、ユーザーが計算するのは全メニューの平均価格ではない。「あのポテトを、この値段で食べられる」という、自分の知っている一品との比較です。
「買うかどうか」から、「LかMか」へ
8月のCMで、永尾さんは、同じ値段なのにMを頼む人がいるのはなぜ、と尋ねます。堺さんが演じるMr.トクニナルドが、その素朴な疑問にたじたじになる。11月には、このやり取りが再び放映されます。[1][3]

この問いかけは、値引き額の説明より一歩先にあります。「250円なら買う?」ではなく、「同じ250円なら、どちらのサイズにする?」。見ている人は、お得かどうかを判定する前に、自分が注文する場面を想像できます。食べたい量で選んでもいいし、Lの量を楽しんでもいい。その選択自体がCMの話題になる。
通常価格より何円安いかという比較に加え、MとLが同じ価格という比較も作る。割引率を計算しなくてもお得さが伝わり、注文のイメージまで浮かぶ。この分かりやすさを、短いCMに詰めたところが巧いと思います。
安く食べたいポテトが、持っていたいポテトにもなる
同じ11月2日、公式アプリの「Myマクドナルド リワード」には、ポテト型のポーチとクッションも登場します。このプログラムは、無料登録後、アプリ経由の購入10円ごとに1ポイントが貯まり、特典への交換や応募に使える仕組みです。[5]
ポーチは6,000ポイントとの交換で先着、クッションは250ポイントで抽選に応募できます。クッションは8月にも登場した物です。どちらも「ポテトの味」ではなく、赤い容器と黄色い形を、家や持ち物の中に置きたいと思う人に向けた特典です。[1]
同じポテトが、二つの違う入口になります。出費を抑えたい日は250円に反応し、好きな形を持っていたい人はアプリの特典に反応する。一人のユーザーが、両方を楽しむこともあるでしょう。値引きで一度の来店を促し、買い物の積み重ねにはアプリ内の楽しみを用意する。定番商品だから、広い人に同時に働き掛けられるのです。
ここから見えるのは、ただの安売りではありません。通常の価格は上げても、「手が届く楽しみがある店」という記憶は手放さない。さらに、その楽しみを食事の外へ持ち出してもらう。マックのポテトは、商品の売上と、店の身近さの両方を背負っています。
昔と同じ価格には戻せなくても、今日ふらっと寄る理由なら作れる。その理由を、誰もが知っているポテトで用意する。250円の広告を見て「じゃあ、行こうかな」と思える余地を残すことは、長く通うブランドにとって、地味でも大きな仕事です。
根拠・参考資料と、この記事の見方
確認日:2026年10月28日。価格・条件・実績は各時点の会社発表です。2025年の8億食と2026年の販売ペースを区別しています。KVIは小売の価格戦略の概念を使った分析で、マクドナルドの社内分類・収益・認知調査を確認したという意味ではありません。価格イメージ、CMで注文を想像する作用、特典による継続的接点は編集上の仮説です。
[1] 日本マクドナルド/10月27日発表。11月2〜13日の価格、対象、販売実績の時点、CM・特典の条件。
[2] 日本マクドナルド/2月24日の価格改定・商品リニューアル告知。約6割・10〜50円と、同時に提示したお得な選択肢。





