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宮本茂氏に文化勲章。任天堂は「ゲームをしない人」と、どう向き合ってきたか

Wiiの「怖がられない」リモコンから、映画を作らない方針を変えた理由まで。受章会見と開発当時の資料をたどり、遊び慣れていない人にも入口をつくるブランドの仕事を読み解きます。

宮本茂氏の文部科学省公開肖像(2015年撮影)と「ゲームをしない人にも。」の文字。今回の会見写真ではない。

冒頭の肖像:文部科学省公開画像/Wikimedia Commons(2015年撮影)。CC BY 4.0互換。全体を保持した縮小・表紙への配置。今回の会見写真ではありません。

Wiiリモコンを振って、テレビの中でテニスをする。映画館でマリオを見る。テーマパークで、ゲームの中にあった景色を歩く。任天堂を楽しむための入口は、ゲームを得意になることだけではなくなりました。

2026年10月23日、マリオやゼルダの伝説などを生んだ、任天堂の代表取締役フェロー・宮本茂氏の文化勲章受章が発表されました。ゲーム分野では初めてです。宮本氏の出身校・金沢美術工芸大学も、お祝いの知らせを掲載しています。[1][2]

今回の会見で追いかけたいのは、宮本氏が繰り返し向き合ってきた相手です。ゲームを遊ぶ人と、遊ばない人。その間の距離を、どう縮めるか。Wiiのリモコンと、映画への転換をたどると、新しいファンを迎えるために、任天堂が商品や接点をどう変えたのかが分かります。

ゲームが上達する人の隣に、入れなくなる人がいた

宮本氏は会見で、ゲームキューブからWiiへ移るころを、悩みの多い時期だったと振り返っています。ゲーム機の性能が上がり、作品も進化し、遊ぶ人の腕前も上がっていく。一方で、ゲームをする人としない人との間に、壁のようなものを感じていたといいます。[2]

遊び慣れた人なら、ボタンが増えれば、できることが増えたと喜べる。でも、初めて手にする人には、覚えることが増えたように見える。同じ進化が、ある人には魅力になり、別の人には入れない理由になるのです。

ここでの課題は、存在を知ってもらうことだけではありません。ゲーム機がどれほど有名でも、目の前のコントローラーを見て「自分には無理そう」と思えば、遊ぶところまで進めない。任天堂は、その最初のためらいを商品側で減らそうとしました。

Wiiのリモコンに求めたのは、「怖がられない」こと

Wiiの開発当時の公式対談で、宮本氏が挙げたキーワードは「怖がられない」。見ただけで使えるか不安になる物より、つい触ってみたくなる物を求めていたと説明しています。[3]

だからといって、初めからあの形が決まっていたわけではありません。当時の岩田聡社長、宮本氏、開発陣の対談には、両手で持つ従来型を変形させた案も、棒状の形から考え直した過程も残っています。大胆に変えながら、珍しいだけの道具にしない。その試行錯誤でした。

机に並べられたさまざまな形のWiiコントローラーの試作品。
画像引用:任天堂/社長が訊く Wiiリモコン編・第2回 © Nintendo。 拡大 ↗

試作品の写真を見ると、最終的なリモコンが、従来のコントローラーを少し細くしただけの物ではなかったことが分かります。手に持つ形から、操作するときの気持ちまで組み替えようとしていた。開発チームが解いたのは、ボタンの配置だけの問題ではありません。

『Wii Sports』の公式サイトは、リビングがテニスコートやスタジアムになると伝えていました。遊ぶ人は、まずスポーツの動きを思い浮かべられる。その動作とゲーム内の反応がつながると、操作方法の説明を覚える前にも、何をする遊びなのか理解しやすくなります。[4]

マーケティングでは、まだ使っていない人を新しい顧客として迎える、市場の拡張という見方ができます。Wiiの場合は、広告の届け先を広げただけでなく、新しく来てほしい人が扱いやすい形へ、商品を変えたところに強さがありました。

その入口は、世界で1億台を超えるゲーム機になった

新しい人に届こうとした判断は、どれほどの規模につながったのでしょう。任天堂が公表する全世界の累計販売数量では、ゲームキューブが2,174万台、Wiiが1億163万台です。[5]

ゲームキューブ2,174万台に対し、Wiiは1億163万台。全世界のハード累計販売数量を同じ比率の棒で比較。
任天堂の販売実績を基にHYPEUP作図。2026年6月末時点、全世界の連結累計販売数量。購入世帯数を示すものではありません。 拡大 ↗

台数だけで、新しく遊び始めた人の割合までは分かりません。それでも、Wiiが従来より大きな市場へ届いた規模は、この数字からつかめます。家族や友人が一台を囲むことも考えれば、商品一台の向こうには、購入者本人以外の人もいます。

遊びをつくる人、機械をつくる人、その遊びを店頭や広告で伝える人。そして、初めての人を誘う家族や友人。Wiiが広がった歩みを考えると、宮本氏のアイデアを製品にし、人へ届けた多くの仕事も一緒に思い浮かびます。受章を祝う日に、その仕事にも思いを向けたくなります。

「映画は作らない」と言っていた宮本氏が、考えを変えた理由

映画への転換も、今回の会見で語られています。宮本氏は以前、ゲームのために生まれたキャラクターは、ゲームで使うものだと考えていたそうです。映画をつくれば、物語のために性格や家族などの設定を決める必要がある。それが、次のゲームで自由に遊びを考える際の制約になることを懸念していました。[6]

この心配は、マリオの使われ方を考えるとよく分かります。新しい遊びを考え、そこへマリオを登場させたいのに、別の作品で決めた設定が邪魔をする。愛されるキャラクターを持っていることが、つくる側の自由を狭める可能性もあるのです。

考えを変えるきっかけになったのが、キャラクターそのものを好きになったファンの存在でした。ゲームを遊ばなくても、キャラクターが好きという形で任天堂のファンになってもらえる。宮本氏は、その可能性に気付き、映画づくりへ前向きになったと説明しています。[6]

マリオ映画のポスターと、共同プロデューサーのクリス・メレダンドリ氏・宮本茂氏を示した公式説明資料。
画像引用:任天堂/2023年5月9日決算説明資料・PDF 17ページのスライド部分。PDF 17ページ上部のスライド全体を抜粋。本文で映画の役割を解説しています。 拡大 ↗

2023年5月の任天堂の決算説明資料も、映画を、ゲーム専用機とは異なる経路で人と出会う取り組みとして説明しています。宮本氏とイルミネーションのクリス・メレダンドリ氏が共同でプロデューサーを務めた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、まだ任天堂のゲームを遊んだことがない人への機会でもありました。[7]

かつては、遊んでもらうためにキャラクターをつくった。長く続けた結果、そのキャラクターに会うために、映画へ行く人も生まれる。これは、単にゲーム会社が別の商売へ進んだというより、ファンが何を好きになっていたのかを、つくる側が捉え直した変化として読めます。

ゲームを遊ばないファンにも、会える場所をつくる

テーマパークも、その流れにあります。2016年の株主総会で、宮本氏はユニバーサルとの仕事について、社外の開発者と一緒に任天堂の商品を増やす方向へ動いていると説明していました。自社だけで、同じ商品を増やす話ではありませんでした。[8]

すでに知られ、親しまれているブランドを、別の種類の商品やサービスへ広げることをブランド拡張と呼びます。ここで任天堂が広げたのは、キャラクターを印刷する場所だけでなく、その世界を楽しむ方法です。コントローラーが苦手でも、映画は見られる。ゲーム機を持っていなくても、テーマパークには出かけられます。

Wiiは、ゲームをしない人にも触れられる操作を考えた。映画やテーマパークでは、ゲームを遊ぶことを入口の条件にしなくなった。二つの判断は、任天堂と出会うために必要なことを変えてきた点でつながっています。

現在の任天堂の社長メッセージには、IPのファン拡大と、長期間にわたるユーザーとの関係づくりという二つの指針が記されています。ゲーム機の外で出会った人とも関係を続け、世代を超えて親しまれる存在を目指す。その方針には、今回の会見と通じるものがあります。[9]

次の子どもにも、「初めての楽しさ」を届けてほしい

親が知っているマリオを、子どもも知っている。そこには、企業にとって強い商売の土台があります。同時に、家族の会話の中へ、一つのキャラクターが何十年も居続けるという、娯楽の豊かさもあります。

今回の文化勲章をきっかけに見るなら、名作が残っていることに加え、その作品へ入る人を増やしてきた仕事も評価したい。遊び慣れた人を驚かせながら、まだ触ったことのない人が近づける入口をつくる。両方を考えるのは、簡単なことではありません。

だから任天堂には、懐かしいキャラクターに会える場所を増やすと同時に、まだ名前もない新しい遊びも届け続けてほしい。親には思い出でも、子どもには、その日初めて出会う楽しさであってほしいのです。

文化として残ることと、今の人を夢中にすること。その両方をこれからも目指してくれるなら、宮本氏の受章は、完成した歴史を振り返る日だけでなく、次に何で遊べるだろうと楽しみにする日にもなります。

根拠・参考資料と、この記事の見方

確認日:2026年10月26日。受章決定後、親授式前の2026年10月26日時点の構成です。会見は取材媒体の公開記録を参照したもので、HYPEUPによる独自取材ではありません。肖像は2015年撮影、Wiiの試作品は発売当時、映画の資料は2023年で、今回の会見の写真と混同しないよう出所を記載しています。販売数量は全世界の連結累計で、特定施策の因果効果ではありません。

[1] 金沢美術工芸大学/卒業生・宮本茂氏の文化勲章受章に関する10月23日のお祝い。

[2] 電ファミニコゲーマー/文化勲章受章決定の記者会見取材。10月23日。遊ぶ人・遊ばない人の壁。

[3] 任天堂/社長が訊く Wiiプロジェクト、Wiiリモコン編・第2回。試作品と開発者対談。

[4] 任天堂/Wii Sports公式サイト。発売時のリビング・スポーツの訴求。

[5] 任天堂/ゲーム専用機販売実績。2026年6月末時点、全世界の連結累計販売数量。

[6] ファミ通/同じ受章会見の取材記録。10月23日。映画への方針転換など。

[7] 任天堂/2023年5月9日決算説明資料。PDF 17ページ(資料表示16ページ)、映画とIPに触れる人口。

[8] 任天堂/2016年6月29日株主総会・質問12。宮本氏による映像・テーマパークの説明。

[9] 任天堂/現在の社長メッセージ。IPのファン拡大と長期の関係づくり。

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