冒頭画像:日本コカ・コーラ/10月23日発表資料。公式に公表された今年のボトルです。
サンタクロースがコーラのラベルに現れると、クリスマスが近づいてきた感じがする。よく考えると、不思議な組み合わせです。寒い季節の主役になっているのは、湯気の立つ飲み物ではなく、冷たい炭酸飲料なのですから。
2026年10月26日、コカ・コーラのウィンターボトルが全国で発売されました。今年はサンタクロースとギフトリボンのデザイン。同社の発表が勧めているのは、家族や友人と囲む食事、クリスマスパーティーでの一本です。[1]
ここには、広告が商品と一緒に育てられるものが見えます。味や機能だけでなく、「いつ、誰と飲むものか」という記憶です。コカ・コーラは、その仕事を一世紀近く続けてきました。
そもそも、冬にはコーラが売れにくかった
出発点は、とても商売らしい悩みでした。コカ・コーラの公式125年史は、1920年代にクリスマス広告を始めた理由を、販売が鈍る冬の売上を増やすためだったと説明しています。今では自然に見えるサンタとの組み合わせも、初めから当然だったわけではありません。[2]
暑い日に冷たいものを飲む理由は、説明しなくても伝わります。冬に同じ商品を選んでもらうには、暑さ以外の理由が要る。そのために同社が取り組んだのが、飲み物の出番を夏の外へ広げることでした。
公式のスローガン史には、1922年の「Thirst Knows No Season」が残っています。喉の渇きに季節はない、という呼びかけです。夏の飲み物という見られ方から、通年の飲み物へ。サンタ広告は、この長い課題の中に位置付けると理解しやすくなります。[5]

「冬でも喉は渇く」と理屈を伝えるだけでは、クリスマスの食卓に何を置くかまでは決まりません。そこへ、コカ・コーラを飲んでひと息つくサンタが登場する。冬にも飲める商品だという説明を、冬に飲みたくなる場面へ変えたところに、この広告の工夫があります。
サンタだって、ひと息つく
1931年、コカ・コーラは画家ハッドン・サンドブロムにサンタの広告画を依頼しました。広告代理店側が求めたのは、象徴的な存在でありながら、温かく現実味のあるサンタ。白いひげや赤らんだ頬だけでなく、人間らしい親しみが重視されました。[3]

この雑誌広告を見てください。サンタは飲み物を手にし、もう一方の手に帽子を持っています。見出しは、その帽子と休息を掛け合わせた言葉。人々に贈り物を届ける特別な存在が、私たちと同じように、飲み物でひと息つく姿になっています。
商品の中身について長く説明しなくても、コーラがそこにある理由を読み取れる。サンタがコーラを褒めるだけの広告より、飲む場面そのものが頭に残ります。これは、キャラクターを商品の横に立たせることと、そのキャラクターの行動の中へ商品を入れることの違いです。
なお、コカ・コーラがサンタクロースや赤い服を発明したわけではありません。同社も公式に、その俗説を否定しています。もともと存在したサンタ像の中から、親しみやすい姿を描き、広く伝える役割を果たしたということです。[4]
発明していなくても、ブランドと切り離しにくいほどの関係は育てられる。マーケティングの仕事としては、その方がむしろ参考になります。誰も所有していない季節の行事にも、商品の居場所はつくれるからです。
「何を買う?」の前に、「どんな時間を過ごす?」がある
例えば、クリスマスの食事を準備している人は、炭酸飲料の味を一から比較する前に、人数や料理、子どもも飲めるか、といったことを考えるでしょう。その場面で、候補に思い浮かぶブランドになれるか。広告には、その働きがあります。
マーケティング研究でいうカテゴリーエントリーポイント(CEP)は、商品カテゴリーやブランドを思い出すきっかけとなる、買い物の状況や動機を指します。エーレンバーグ・バス研究所は、買う場面で思い浮かびやすいことを「メンタル・アベイラビリティ」と説明しています。[6]
コーラなら、「暑くて喉が渇いた」だけでなく、「みんなで集まる食事の飲み物を用意する」も、候補を考える入口になる。これは同社の施策をCEPの考え方で読んだ解釈ですが、今年の発売告知が食事やパーティーを具体的に挙げていることとも重なります。
サンタの絵は、その入口を短く伝えられます。冷たさや爽快感を説明する代わりに、クリスマスに集まる人たちの時間を思い浮かべてもらう。ラベルを変えることが、単なる季節の飾り以上の役割を持つのは、そのためです。
毎年戻ってくるから、広告が「季節のしるし」になる
サンドブロムは1964年までサンタの原画を制作し、その絵は雑誌だけでなく、店頭の掲示物やポスターなどへ展開されました。制作終了後も、その原画をもとにしたサンタが使われています。一度の話題づくりで終わらせなかったのです。[3]
同じ絵柄を繰り返すと、目新しさは減ります。でも、見た瞬間に分かることは増える。赤いラベルと親しみのあるサンタが並べば、説明を読む前に季節と商品を結び付けられる。このように、ブランドを見分けたり思い出したりする手掛かりとして蓄積されたものが、ブランド資産になります。
毎年新しい表現を求められる仕事では、去年と似ていることが欠点に見えがちです。しかし、受け手にとっては「また会えた」が価値になることもある。年に一度しか来ない季節なら、その一年分の間隔も含めて、繰り返しが働きます。
だから、今回のボトルに見るべきものは、新しい絵柄の出来だけではありません。これまで育てた記憶を、今年の売り場へきちんと戻しているか。その視点で見ると、派手な新機能のないラベルにも、長く積み上げてきた仕事が詰まっています。
今年のクリスマスも、同じ顔で迎えてくれる
冬の売上を伸ばしたいという企業の都合から始まった広告が、受け手には季節を知らせる存在になる。ここに、長く続く広告の魅力があります。売りたい理由と、人が楽しみにする理由が、何年もかけて近づいていくのです。
私は、こういう「変えない仕事」も、もっと評価されていいと思います。新しい企画を考える能力と同じくらい、人が覚えているものを見失わず、今年も気持ちよく会える形で出す能力には価値がある。
冷たい一本を買う理由と、冬が来るのを少し楽しみにする理由。コカ・コーラには、その両方を、これからも育ててほしいと思います。クリスマスが近づくたびに同じ顔が戻ってくることは、変化の速い売り場の中で、案外うれしいことなのですから。
根拠・参考資料と、この記事の見方
確認日:2026年10月26日。歴史と狙いは同社の公式史料を参照し、飲用場面とCEPの関係は編集上の分析です。今回の施策の販売効果を検証した記事ではありません。過去の広告画は当該表現を論じるための引用で、実地取材や原画の現物確認はしていません。
[1] 日本コカ・コーラ/2026年10月26日発売のウィンターボトル。10月23日発表。
[2] The Coca-Cola Company/125年史。PDF 10〜13ページ。冬の需要とクリスマス広告。
[3] The Coca-Cola Company/サンドブロムとサンタの広告史。原画制作・広告媒体・掲載画像。
[4] Coca-Cola/サンタの伝説を同社が創作したという説を否定する公式FAQ。
[5] The Coca-Cola Company/広告スローガンの年表。1922年の通年訴求。
[6] Ehrenberg-Bass Institute/カテゴリーエントリーポイントとメンタル・アベイラビリティの解説。



