冒頭画像:HYPEUP制作。
新しい商品の案を見せると、10万人分のAIが感想を返してくれる。東京の若い一人暮らしにも、地方で子育てをする世帯にも、条件を変えて何度でも聞ける。
TOPPANが10月13日に提供を始めたのは、そうした「AIペルソナ」を使うマーケティング支援サービスです。ペルソナとは、顧客を理解するために設定する人物像のこと。今回は公的統計や生活者データを基に、15歳以上、47都道府県をカバーする10万人の人物像を構成し、40の集団に分類しています。実際の10万人へ新しくアンケートを取るサービスではありません。[1]
便利そうだと思うと同時に、私は一つ気になりました。この10万人の中に、商品に興味がなく、広告を読まず、聞かれても「別に」としか言わない人は、どのくらいいるのでしょうか。人の気持ちを代弁するAIに、マーケターが最も会いづらい人を再現できるのか。そこから、このサービスを考えたいと思います。
年齢と所得が合うことと、買う気持ちが合うことは違う
TOPPANは、国勢調査や家計調査などから人口の構成を再現し、生活価値観や買い物行動などの情報を加えています。電子チラシ「Shufoo!」のデータも組み合わせる。若者ばかり、都会の人ばかり、といった偏りを避けながら、買う人を考える土台を作ろうとしているのです。[1]
ここで分けたいのが、人の構成を合わせることと、人の反応を合わせることです。年齢、所得、家族構成が同じ人でも、新商品をすぐ試す人と、いつもの物しか買わない人がいる。同じ人でも、その日の余裕によって広告を読むことも読み飛ばすこともある。
人数を増やせば、この違いも自動的に正確になるわけではありません。もし回答を作るAIに共通したクセがあれば、10万人へ増やしても、同じ方向へずれた答えが大量に出る。統計でいう「バイアス」は、数を増やすだけでは消えないからです。
「未顧客まで理解する」と打ち出す以上、人口の構成を合わせた先で、実際の人の反応へ近づける必要があります。そこで参考になるのが、9月に米国のPew Research Centerが公表した、実際の人とAIの分身を比べる研究です。
人は16%、AIは4%。「わからない」が消えていた
Pewは、実在する調査参加者の属性や、以前の調査への回答をAIへ渡し、その人の分身として別の調査に答えさせました。実際の人と、同じ人になったつもりのAIへ、同じ質問を出したわけです。[2]
結果の一つが、下の差です。「わからない」という選択肢を用意した意見の質問で、人がそれを選んだ割合は16%。AIは4%でした。AIにも知らないことや間違いがあってよいと指示していたのに、答え方の差が残りました。[2]

同じ研究では、知識を問う問題でも、AIが人より正解を選びがちでした。人間の分からなさを、AIが知識で埋めてしまう。人間のためらいを、AIがもっともらしい意見へ変えてしまう。そうなると、回答は立派なのに、本人から遠ざかるということが起きます。
この研究は米国の世論調査であり、TOPPANのサービスを試した結果ではありません。ただ、同じ難しさが商品評価にも出るとしたら、どうでしょう。AIは「なぜ買いたいか」「どこを直してほしいか」を丁寧に話してくれるのに、実際の売り場では誰も足を止めない。そんな食い違いが起こり得ます。
商品の改善点を語れる人だけが、商品を買う可能性のある人ではない。存在に気付いていない人、違いが分からない人、考えるほど関心がない人も、市場にはいる。マーケターは、その人たちに振り向いてもらいたくて広告を作っているはずです。AIの協力的な回答ばかりを聞くと、いちばん越えたい無関心を、越えたつもりになってしまう。
TOPPANが売ろうとしているのは、AIの回答だけではない
一方、TOPPANの発表で見逃したくないのが、人物像を作った後の工程です。AIが販促案を作り、AIペルソナへ反応を聞き、その結果を使って案を直す。さらにチラシ、DM、Webカタログ、バナーなどの制作や、実際の販促へつなげると説明しています。[1]

この図を、調査を安く早くする道具の図としてだけ読むと、事業の狙いを見落とします。TOPPANは、誰に売るかを考える段階から、何をどう見せるか、作って届ける段階まで、続けて支援できる会社になろうとしている。ここからは事業構造からの読みですが、印刷物や販促物の発注を待つより前に、顧客が企画を決める場所へ入る意味があると思います。
発表価格は標準版1,000万円から。2030年度までの売上目標は、関連受注を含めて約20億円です。「関連受注を含めて」という言葉も重要です。人物像の利用料だけでなく、その先の仕事までつながるサービスとして設計されていることが分かります。[1]
企業側にとっても、調査会社、企画担当、制作会社の間を何度も行き来せずに済むなら、価値があるでしょう。私は、この工程のつなぎ方にこそ、TOPPANが手掛ける理由を感じます。
企画を作るAIを、評価するAIが褒め続けたら
ただ、工程が一つにつながるほど、確かめたい点もはっきりします。AIが考えた案をAIへ見せて、好意的な答えが出るたびに改良する。その中で、本当に人へ近づいているのか、AIが好む説明へ近づいているのかを、どこで見分けるのでしょうか。
例えば、商品説明を長く、理路整然と直した結果、AIの評価は上がる。でも、買い物中の人には読む時間がない。そんな場合、AIの評価を上げる作業と、売り場で伝わるようにする作業が、逆へ進みます。
だから、私が見たい精度の説明は、AIが何人分あるかより、実際の人と食い違った後に、何を直せたかです。買うと答えたのに手に取られなかった商品。低評価だったのに特定の店でよく売れた企画。そうした予測外れが、次の人物像や評価へ戻るなら、使うほど現場に近づく仕組みになります。
TOPPAN自身も、実際の施策の結果を検証し、改善する基盤への拡張を目指すとしています。Shufoo!などの生活接点を持つ会社だからこそ、AIの上手な説明を、そのまま顧客の本音として終わらせずに済むはずです。[1]
10万人に褒められる企画より、見過ごしていた一人に気付ける企画へ
AIへ何度でも相談できることは、企画の初期には心強いと思います。既存の購入者データだけを眺めていた会社が、買っていない地域や世代へ目を向けるきっかけにもなる。その可能性は育ってほしい。
ただ、顧客理解が難しいのは、人がきれいに説明できる存在ではないからです。値段が理由だと言いながら、好きな物には払う。広告を見ていないと言いながら、色だけ覚えている。よく分からないから買わない。そのちぐはぐさまで扱えて、ようやくマーケティングの仕事になる。
TOPPANに期待したいのは、10万人のAIを説得力のある応援団にすることではありません。企画者が置き去りにしていた人や、読み飛ばしていた反応へ気付かせてくれることです。答えの数を増やす技術が、都合の悪い顧客まで消さずに連れてこられるなら、その10万人は、ずっと頼もしい存在になると思います。
根拠・参考資料と、この記事の見方
確認日:2026年10月27日。TOPPANの構成・機能・価格・将来目標は同社の公表情報です。Pew研究は米国の世論調査の再現実験であり、TOPPANのモデルや購買予測の検証ではありません。広告への無関心、長い説明の評価、事業構造の読みは、研究や公表機能から考えた本文の仮説です。
[1] TOPPAN/10月13日発表。AIペルソナの構築方法・用途・価格。自社によるサービス説明。
[2] Pew Research Center/2026年9月30日。実在の調査参加者とAIの分身の回答を比較した世論調査研究。「わからない」の回答割合は16%と4%。


