冒頭画像:スターバックス/2026年10月26日発表のHoliday Bingo Party公式ビジュアル。企画は11月2日開始予定。
まだ商品を買っていなくても、最初の一回はビンゴを回せる。11月2日から始まるスタバのホリデー企画は、その一回から参加できます。普段の買い物でStarを貯める仕組みがあるのに、なぜ、さらにビンゴまで重ねるのか。米国で続けてきたゲーム型の販促を調べると、「いつもの一杯」が強いブランドならではの悩みが見えてきました。
「Merry & Meet Holiday Bingo Party」は、スターバックス リワード会員向けのデジタル企画です。初回は購入不要。その後は、対象の支払い方法で条件を満たす商品を購入すると、ビンゴへの挑戦権を得られます。達成数に応じた特典や、ベアリスタグラス、3,000円分のeTicketなどの抽選が用意されています。[1]
新作を見て「一度飲んでみよう」と思わせることと、その次にも選んでもらうことは、別の仕事です。今回のビンゴは、季節の話題を、次の買い物の理由へ変えるために置かれている。私は、その役割から読んでみたいと思います。

毎日来る人にも、「もう一回」を作るのは難しい
いつも同じ時間に、いつものコーヒーを買う。ブランドにとって頼もしい習慣ですが、販促で売上を上積みするとなると難しさもあります。もともと5回来る人へ、5回来たお礼を付けても、増えたのは景品の費用だけかもしれないからです。
過去のスターバックスのゲーム企画を率いたクリエイティブディレクター、Nick Thiel氏は、自身の制作事例で、コーヒーのような日常の習慣に、さらなる利用を生む難しさを説明しています。狙ったのは、新規会員の獲得に加え、違う時間帯の利用や新商品の試用でした。[2]
ここで押さえたい言葉が、インクリメンタリティです。施策がなければ起きなかった購入などの「上積み」を指します。売れた数を全部、その施策の手柄にするのではなく、何を新しく生んだかを見る考え方です。
朝の常連が、午後にも寄りたくなる。飲み物だけ買う人が、食べ物も試してみる。アプリを使っていなかった人が、次も使えるようになる。スタバのゲームは、単にロゴを見せる広告より、そのような具体的な行動に近い場所で作られてきました。
モデルケースは、同じスタバの過去にある
2014年のホリデーには、「Starbucks for Life」という大きな抽選企画がありました。カナダの公式発表で案内された特賞は、30年間、毎日一つの対象フードかドリンクを無料で楽しめるもの。カードやアプリでの支払いに結び付け、いつものコーヒーを、一度は夢を見たくなる景品に変えました。[3]
その後の会社の評価も残っています。2015年度第1四半期の決算発表で、当時のCEOは、カード、新しい季節商品、Starbucks for Lifeを含むホリデー体験が、来店増に貢献したと説明。同四半期の世界の既存店売上は前年比5%増、取引数は2%増でした。これは複数の施策を含む期間全体の数字で、ゲーム一つの効果ではありません。それでも会社が、店内の商品とデジタルの遊びを、一つの季節体験として評価していたことが分かります。[4]
さらに2017年には、米国の「Bonus Star Bingo」が報じられています。当時の盤面には、「金曜の正午以降に買う」「一回の注文で12ドル以上使う」など、行動の条件がありました。同じ購入で複数の条件を満たすこともでき、列などを揃えるとStarが増える仕組みです。[5]

制作者が公開した別の過去のデザイン例にも、「平日の午後2時以降」や「一回に10ドル以上」といった条件が見えます。スタバを思い出してもらうだけではなく、いつ来るか、何をどれだけ買うかに、ゲームの目標を重ねているわけです。

今回の日本版では、対象購入で挑戦権を得てビンゴを回します。2017年の米国版が「どんな買い方をしてほしいか」まで指定したのに対し、今回は、普段の対象購入で遊びを進める構成です。買う内容へ細かな宿題を出さず、いつもの支払いで参加しやすくする。そのうえで「続きを進めたい」を次の購入へ重ねる、という読み方ができます。
ゼロのポイントより、途中まで進んだ盤面が気になる
普通のポイントは、買う金額に応じて少しずつ貯まります。ビンゴでは、それに加えて「どこが空いていて、どこが揃いそうか」が見える。金額を計算する以外に、続きが気になる理由を作れます。

目標に近づくほど、その達成へ向かう行動が速まることを、ゴール勾配効果と呼びます。この分野には、実際のカフェで、必要な購入回数を変えずにカードの見た目を変えた実験があります。
顧客108人を無作為に二つの条件へ分け、一方には10枠のスタンプカードを、もう一方には12枠のうち最初から2枠が埋まったカードを渡しました。どちらも、無料の一杯まで必要な購入は残り10回です。それでも、報告された達成までの平均日数は、前者が15.6日、後者が12.7日でした。[6]

必要な回数が同じでも、すでに進んでいるように見えると、行動のペースが変わった。研究が示すのは、この実験での違いです。今回のビンゴは、購入ごとに決まったスタンプを押すものではありません。ただ、最初の一回を買わずに回せる設計も、まず盤面を自分の物として触り、その続きを考え始めてもらう入口として読めます。
段階ごとの特典にも役割があります。最終的な大きな景品だけなら、遠くて諦める人もいるでしょう。途中の達成にも特典があれば、次に目指す場所が小さく分かれる。抽選で当たる期待と、揃えた分だけ受け取れる特典を重ね、参加する理由を一つに絞っていません。
店舗だけでなく、グッズとギフトまで一緒にする理由
今回の対象は、店で飲むコーヒーだけではありません。条件を満たすフード、コーヒー豆、グッズ、オンラインストア、Starbucks eGiftなどの購入も対象に含まれています。自分が飲むための一杯と、誰かに贈る買い物を、同じ盤面で進められる構成です。[1]

ホリデーには、自分へのご褒美も、人に渡すギフトもあります。そこで決済ごとに別々の企画へ誘導するより、同じビンゴへ戻ってこられる方が、「次は何を買おうか」をつなげやすい。これは、店頭で買う人をECへ、飲む人を贈る人へと広げる、クロスセルの可能性も持っています。
景品のeTicketも、外の店で使って終わる物ではありません。またスタバで飲食する機会になります。企画の説明では、家族や仲間と楽しむ使い方を勧めています。一人で貯めた挑戦権が、今度は誰かを誘う理由になる。特典を受け取った後の過ごし方まで、店への来訪につながる構成です。
ここが、新作を一品紹介するだけの販促とは違うところです。一つの商品を買わせる場面ではなく、季節の間にある、自分用と贈り物、店頭とオンラインという複数の買い物を、同じ遊びへ集めています。
次は「誰に、何を試してもらうか」が細かくなる
過去の米国企画を踏まえると、この先の進化も予想できます。誰にでも同じ回数の来店を求めるだけでなく、朝に来る人には午後の体験、グッズを買う人にはギフト、アプリを使わない人には注文機能の試用を促す。ゲームの目標が、一人ひとりの「まだ使っていないスタバ」に近づいていく方向です。
これは、今回の日本版で発表された個別化機能ではなく、先行例から考える次の可能性です。その際、本当に増やしたいのは、アプリを開く回数だけなのか、それまでなかった買い物なのか。次の月に買う予定を前倒ししただけでは、長い関係の成長とは言いにくい。先ほどのインクリメンタリティが、ここで効いてきます。
そして、スタバのゲームが続いてきた理由を、ポイントの計算だけで片付けたくありません。過去の画面にも、今のベアリスタにも、その季節に触りたくなる絵や物語がある。毎朝の買い物が、少しだけ違う体験になるように作っています。
好きな一杯を飲み、バリスタと話し、贈りたい物を選ぶ。その楽しみを広げるためにビンゴがあるなら、次の来店も待ち遠しくなる。クリアのために無理な買い物をするより、いつもの店で、まだ知らなかった楽しみが一つ増える。スタバには、その順番を大切にしたゲームを続けてほしいと思います。
根拠・参考資料
確認日:2026年10月29日。公式発表、過去の事例、研究を照合して構成。企業が説明した狙いと、そこから導いた分析・将来の予想を区別しています。
[1] スターバックス/10月26日、日本のHoliday Bingo Party発表。11月2日開始、参加条件、特典と抽選。
[2] Nick Thiel/Starbucks Gamesの制作事例。習慣的な購入への上積み、新規登録、時間帯や商品への狙い。制作者自身の成果説明で、個別施策の因果効果を示す第三者調査ではない。
[3] Starbucks Canada/2014年12月2日のStarbucks for Life公式発表(PR Newswire配信)。景品とカード・アプリとの接続。
[4] Starbucks/2015年度第1四半期決算発表。2014年12月28日までの13週間。世界既存店売上+5%、取引数+2%は複数施策を含む期間全体の数字。
[5] Mobile Commerce Daily/2017年3月8日(現Retail Dive収録)。Bonus Star Bingoの行動条件と特典。



